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第四回闘技大会・探偵編
 第四回闘技大会での、設定から作られた文章の一つになります。
 全部書くとかいっていたのに、現状まだこれだけ……なんてこった。
 とはいえ出来た順に投稿してみます。

 テーマは探偵。
 七折が推理を駆使する迷探偵
 ミオさんが助手
 熄さんが行動を主にする探偵
 



 窓から差し込む朝日でミオ・リーフェンラージェは目を覚ました。小さな身体をベッドの上で思いっきり伸ばしてから、今日の予定を考えてみる。
 特別な予定は無いので定時に出れば問題ないかなと判断を下したところで、電話が咎めるように喚いた。
 苦笑をしつつパジャマのままそれに応じると、聞き覚えのある声が興奮気味にまくし立てていた。
一度受話器を置いてから着替えようとして、もう一度持ち上げ迎えに来てくれるようにお願い。彼女の一日はこうして始まった。
 


 七折ユリエは街中をとばしていた、優秀な助手を迎えに行くということでなんとなく探偵気分に火がついているのかもしれない、
 職業は探偵。彼女曰く名探偵。だが実際のところ事件の解決に大きな貢献をするのは助手のミオであって、七折が名探偵という要素は殆ど無かった。
 彼女自身もミオの活躍には敬意をはらっており、こういう送迎も喜んで行う、ただ自身が名探偵という一線は譲れないらしく、名探偵と名乗り続けている、周囲の評判は推して知るべし。
 大げさにブレーキを踏んでミオ宅の前に駐車する、すでに玄関先に出てきていた彼女は若干複雑な表情をしたが黙って乗り込んだ。


「事件の内容はどんなものなんですか先生?」
「強盗事件よ、三品鉄鋼の社長宅に入った強盗は金庫を破ってその中にあった現金を奪って行ったらしいわ」
「……三品鉄鋼ですか」
 ミオの要望で法定速度まで落とした車内では事件の検討が行われていた、三品鉄鋼は全国的とまでは行かなくともこの街では大きい部類の会社なので狙われたとしても特におかしいことは無い、だが問題は破られたというその金庫であった。
 今でこそ会社の形を取っているが、創業者の三品周五郎は自身を発明家と称する変わり者で、その金庫といえば開かずの金庫として有名だ。ミオも一度見たことがあったが、どちらかというとからくり箱と言った様相で空ける手段が思い浮かばなかった。
「随分練られた計画なのか、内部犯……どちらにしても厄介そうな事件ですね?」
「……? 良くわからないけれど頑張りましょ!」
 こういうやり取りを毎回繰り返して、雇い主を間違えたんじゃないかと思うミオであったが、今のところ変える予定は無かった。


「な、何でアンタがここにいるのよ!」
 現場について七折が最初に発したのがこれだった、ミオを置いてそのまま指差した相手のほうへと向かっていく。
 呆れたようにそれを待ち受けたのは青髪の青年で名を熄といった、やり取りからも判るように知り合いであり、同業者でもあった。七折が推理を前面に出した探偵であるのに対して熄は行動を第一に置く探偵で、熄のほうが探偵らしい探偵といえた。
「はぁ……俺は逆になんでお前がいるのか聞きたいぐらいだよ、遊びじゃないんだぜ」
「こ、このぉ!」
 言い争っている(というよりも一方的に噛み付いている)場面へとミオが追いつき、熄へ会釈をする、それに右手を上げて答え彼は話題を変えた。
「おう、景気はどうだ? 無能を捨ててそろそろこっちの助手になる気になったんじゃないか?」
「魅力的な話だとは思いますが、そちらにも優秀な助手はいらっしゃるじゃないですか、それに先生はそこまで無能というわけではありませんよ」
「ミオちゃんは渡さないっ!」
 ミオの頭の上に顎が乗る位置まで姿勢を下げて、抱きかかえるようにガードする七折、その様子を若干哀れむように見てから、彼はつぶやいた。
「優秀といえば優秀だけどな、中々現場に出たがらなくて困る」
 熄は水の精霊であるウンディーネを助手に雇っており、助手としての仕事に申し分は無かった、だが彼のいうとおりあまり現場に出てくることは無く、裏方に徹している印象だ、ちなみにミオとは長い付き合いで、オフでも交流があったりする。
「今度会ったらそれとなく言ってみますよ」
「頼む」
 背を向けて去っていく熄に舌を出す、会話に入り込む隙が無くてフラストレーションがたまったらしい。
「先生、若干重いです」
「乙女に向かって重いなんてっ!」
 そういいつつも拘束を解いて、現場へと歩き出す七折。立ち直りが早いのが唯一とも言える長所かもしれない。



「……先生。これは強盗じゃないですね」
 現場にて情報収集を行った後の一言、呆れ成分がかなり含有されているが、平然と聞き流して彼女は聞き返した。
「じゃあ、なんだろ?」
「空き巣です」
 事件概要はこうだった、三品氏が外出している間に何者かが社宅に侵入、金庫を破り中の現金を奪って行った。
「あんまり変わらなくない?」
「かなり変わるだろう……」
 今度は呆れ成分が100%の声で熄が言う。
「空き巣だとしたら、三品氏が帰ってくる前に全てを終らせたことになる、家の鍵を開け、金庫を開け……だぞ。スケジュールを完全に把握していたとしても、今回の制限時間は20分程度。その間にあの金庫を破るのは……難儀だろう」
 さらに三品氏への聞き込みで開け方を知っているのは彼とその祖父周五郎氏だけであることが判明している、周五郎氏は他界しているので実質三品氏しか空けられないはずだ。狂言という可能性も残る。
「なるほどね、良くわからないけれどかなり厳しいらしい、と。ミオちゃんも同じ意見?」
「大体は……でも、アリバイを洗ってみたら、容疑者らしき人たちが……」
「さすがね! それじゃあその人たちを絞れば」
「でも、なんというか」
 ミオが資料を見て口ごもる、彼女が取ろうとすると横から熄が先にとった、にらみつけるが意に介さない様子で、資料を読み。
「なんだこりゃ、鍵屋に、催眠術師に、霊媒師?」
「随分怪しい人ばかりね!」
「現実的には鍵屋ぐらいのものですが……」
「まぁいいわ! 全員とっちめる!」
「まだ確定してないのにとっちめたらいかんだろ」



 七折サイド
 結局三人に分かれてそれぞれの容疑者を追うことになった、鍵屋は殆ど外に出ているらしく、それを捕まえるために彼女が走ることになった、とりあえず接触して話を聞きだすということなら彼女でも問題ないという判断だ、尾行をする必要もないし。
 そんなわけで序盤は気軽なドライブといった感じで走っていたのだが、途中で飽きてしまい、止まっては暇を潰していたところに幸運にも鍵屋が通りかかった。相手は車こちらも車、気分はカーチェイス、用心しなくちゃいけないのは警察ぐらいなものだ、切符はもう簡便だ。
 彼女なりの安全運転で鍵屋を追い詰め、路肩へ停めさせるすぐさま降りていって相手を引きずりだすように降ろした。
「な、何をするんですか!」
「三品鉄鋼のことで聴きたいことがあるわ!」
 高らかに宣言する彼女、勿論犯行の確証があるわけではないので無罪だったらかなりヤバい。だが。
「そうですか……全てお話します」
 あっさりと認め勝手に自供を始める鍵屋。
「三品氏の金庫は何度か見せてもらったことがありました、点検もしたことがあります、ただ開け方は全くわかりませんでした。それでも鍵屋としてのプライドがありました、いつか開けてやろうと! そしてこの前三品氏宅へと侵入し、5分間で開けるべく努力をしたのですが、失敗……冷静になった私は逃げ出しました、ですが空き巣を行ったことは事実です、ばれてしまうとは思わなかったのですが」
 一人自供していく鍵屋の隣で微妙な表情の七折、なんてこったこいつはハズレだ!



 熄サイド
「こちらは異常なし、そちらは?」
「こっちも異常なしです」
 今度は優秀な助手を連れて現場に出ている熄、二箇所から監視をしつつ、動きがあれば尾行を繰り返す。十分に人がはけたら直接聞き込みに行きたい所だったが、中々人ごみの中から動こうとしなかった、撒かれないように見張るが相手にその気があるのかすらわからない、もやもやする状況が続いた後、対象が携帯電話を取り出した。
「む……そちらから口元見えるか?」
「何とか、み・し・な……言いましたね三品って。どうします?」
「まて、動いた!」
 電話をしまった催眠術師が動く、二人は気づかれぬようそれを追いかけ人通りの少ない路地にて姿を現した。
「き、君達は一体……」
「三品鉄鋼のことで話しがある」
「そうか……なら仕方がない全て話そう」
 催眠術師も殆ど抵抗する様子は無く、ただがっくりと肩を落として話し始めた。
「三品氏は不眠症に悩んでいました、それを解消するために私が通っていたのですが、彼の金庫……アレが私を誘惑してやまなかったのです。そうしてつい先日彼の治療をするついでに金庫の開け方について聞き出しました。いえ、聞き出すついでに治療したというべきでしょうか。そして彼が出かけたとき。幸いなことに家の鍵は開いていました。金庫に向かうと、私は彼の言った方法を試しました、しかし金庫は空かなかった、彼は空け方のすべてを覚えていたわけではなくメモとして持っていたのでした、結局怖くなって五分ほどで私は逃げ出しました……とはいえ空き巣を行ったことは事実、ばれるとは思いませんでしたが……」
 熄とウンディーネは自供している犯人を横目に顔を見合わせた。どうやらこいつはハズレだと。



 ミオサイド
 霊媒師の担当になったミオは少し迷っていた。
 相手はどうやら有名な霊媒師らしく常に一定の場所で開業しており、話を聞くだけなら簡単に思えた、だが仮に事件を起こしたのだとしたら、以前と変わらぬ営業は不自然であり、もう一つぐらい何か踏み込む要素がほしかった。
 手持ちの資料を見直しても、怪しさの優先順位に変化は見られない、後の二人が見当違いに終ったとわかれば踏み込みやすいというものだが。
 しばらく考えた後彼女は覚悟を決めた。直接当たって駄目ならあきらめようと店の中へと踏み込んだ。
「いらっしゃいませ」
「……三品鉄鋼のことでお話があります」
 それを聞くと霊媒師はあからさまに動揺し、彼女が何も話さないまま黙っていたのに両手を挙げて喋り始めた。
「三品氏の金庫いえ先々代周五郎氏が作ったといわれる金庫の中の大金に私は興味がありました、それである日忍び込み周五郎氏をこの身におろし、金庫を開けようとたくらみました、なぜか家の鍵は開いており、金庫の前にて周五郎氏をおろし、からくりを突破した……ように思いました」
「思った、ですか?」
「えぇ、あの金庫は三品氏による改装がなされており、周五郎氏の知る仕掛けのみではなくなっていたのです、何せ作業を終えたとき、触っていない鍵穴が三種類もあったのですから……、怖くなり私は直ぐに逃げました、五分程度の出来事でしょうか……なんにしても空き巣に入ったことは事実です、ばれるとはおもわなかったのですけれどもね」
 淡々と告白する霊媒師の横でミオの電話が鳴った、一回目の電話を終えた後、もう一度なった、二度目の電話を終えた後で混乱気味の頭を抑えつつ、彼女はその場をあとにした。



「おひさしぶり」
「そうかな? 四人そろう場では久しぶりだけれど」
 ミオは旧友に手を上げて挨拶をし、カウンター席の一つに座った、直ぐ左には七折その左には熄が居て、お互いエビフライの取り合いを行っている。彼女の右にはウンディーネが座り水を勧めてくれた。
「今回はすっきりしない事件だったね」
「そう……犯人を特定できないって意味では、でも不幸が重なったような形だし、仕方がないとも言えるかな……?」
「え、何どういうこと?」
 七折が横から口を出す、それに苦笑しながら彼女は答える。
「今回の事件は四人の犯人による空き巣事件でした。最初の鍵屋さんが家の鍵を開け金庫の鍵を開けるのに失敗し、次の催眠術師さんが三品氏の鍵を開けることのみに成功し、次の霊媒師さんが周五郎氏の鍵を開けるのに成功しました。でも、霊媒師さんは触れていない鍵穴があることで鍵が開いたことを確認しなかったのです。それで……次に浸入したどこかの誰かさんが、開いているドアから入り、開いている金庫を開けてお金を持って逃げてしまいました。これが全容です」
「な、何それずるい!」
「ずるいって言っても仕方ないだろ、真実は多分それだ、確かに特定できない犯人とかいろいろと理不尽なことはあるけれども、ミオの推理が一番答えに近いはずだ」
 グラスを傾けながら熄が言う彼も納得のいかない様子ではあったが、とりあえずは折り合いはつけたようだった。
「ぜんっぜん納得できない! ミステリのルールとか知らないわけ? そもそも霊媒師とか催眠術師とかそういうあたりで……」
「だからつまり、これはミステリじゃなかったってことで、どうでしょう先生」
 月は高く四人を照らす、次の事件は一体どこ

第三回闘技大会・あんな設定こんな設定
タイトルどおり、第三回闘技大会で行ったランダムロールの記事です。

概要
一回戦から八回戦までテーマを決め、それに従ったロールを行うといった募集で八回戦を戦ってきました。
黒ノ夢魔さん(498)と朝霧雪菜さん(2025)が立候補してくださり、とりあえず八回戦無事に戦い終えることが出来ました。勿論戦っていたのは毎回の台詞変更等がメインなのですが。
実は黒ノ夢魔さんが毎回登場絵を提供してくださるというドM頑張りぶりを発揮してくれていたのですが、雪菜さんが自分も書いてみようか、ということで文章を書いてくださり、それに便乗させていただく形で私もやってみようと足掻いていました

でまぁ、何でいまさらこんな記事が出来るかといいますと。

私、ほとんど文章間に合わせられなかったんですよね<1/6>

掲示板ではわりと強気な発言をしていたのですが、終ってみればそんな事実だったので、これはいかんと推敲したりして、何回分かかいておりました。ってことでそれを使っていまさらながら、こんな設定でしたという感じの発表をしたいと思います。(この記事の段階でまだ八回戦が終っていませんのでそれは後、また5回戦6回戦は書き終わってないのでそれも後、4回戦は書いてあるけれど推敲したいので後)
終りましたー、次が始まる前に出来てよかった。始まったら結果リンクけしまう
文章を読んでいただき闘技大会でどんな感じだったのか見てくださると幸い、闘技大会から設定を推測してもいいかもしれません。
ちなみに一応掲示板での相談や台詞などから文章をくみ上げておりますが、微妙に違いがあるかもしれませんその際は全てこちらの手落ちですので、そのほどよろしくお願いいたします。

今回かなり楽しめたのも勿論お二方の力添えがあったからにほかなりません、久々にやる気にみなぎって台詞と日記をかけました。文章内容は完全に身内話ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
それぞれ前書きがある場合があります、その場合見出しをつけて本文とは分けてあります。

毎回登場絵を提供してくださったノワールさんによるまとめ
完走なされていたのですが、設定の提出が遅れたり、スレ立てが遅れたり、二週間のフラグがたったりと環境は厳しいってれべるじゃねーぞ! という感じでした。毎回の提供本当にありがとうございましたー!



一回戦
【学園物】

二回戦
【歯医者】
三回戦
【戦場】

四回戦
【魔法少○】

五回戦
【ヒーロー】

六回戦
【家族・家庭】

七回戦
【中二病】
八回戦
【ヤンデレ三角関係】
おまけ
闘技大会八回戦のおまけ
前書き

八回戦でのマルチエンディングの結果生まれた蛇足。プロットで書いた部分が不自然すぎて全放棄という悲しみを背負ったりした。
文章中で出てきている出来事が、内容でしたが、この話につなげられなかったのでした。

本文


「ユリエさんの怪我は結構酷いのかな?」
「傷は残りそうだけれど、生きていくのに不便は無いらしいぞ?」
 並木道を二人の男女が歩いていた、大きいほうの男子は浅黒い肌に長い髪を束ねている、話している内容は明るいとはいえなかったが、その視線は数日前より明るかった。
 小さいほうの女子は黒髪に白と黒の服装。表情はまだ幼いがそれを曇らせて続ける
「傷……のこっちゃうのか、やっぱり謝らないとね」
 そうだな、と同意する男。義兄の顔を見て雪菜は確認するように頷いた。
 数日前、三人それぞれが抱いた感情がぶつかり合い、ノワール宅でちょっとしたとはいえ無い衝突が起きた。
 結果としてユリエが負傷し入院、二人にも小さな傷がいくつか残る結果となった。あまりいい結果に聞こえないが、用意されていた結末の中では一番良い形だったことは疑うべくも無い。
 一人残らず、かけてしまってもおかしくないような状況を超えて、彼らのモヤモヤは解消できたかに見える。だが本質的な問題はなんら変わっていないので、これからが一番大事な時期といえた。
 気づけば彼女が入院している病院についている、受付で部屋番を聞いて向かう途中も二人は緊張感を持ち続けていた。



 数日振りに会う彼女はやせたように見えた。
 特徴である髪も今は結っておらず、病院服を着ている様をみていると、自分の上に跨って刺し殺そうとした女性には見えなかった。
 ふと、視線に気づいたのか青い瞳をこちらに向ける、動作はゆっくりとしていて病的だったが、あの光を失った瞳ではなく、感情の読み取れる瞳だった。
「おはよう、お見舞いありがとうね、ノワール君いつもどおり格好いいよ、雪菜ちゃんはいつもどおりかわいい……二人とも良い顔してるよ」
 くすりと笑みを浮かべて彼女はそういった、それに少し遅れて二人も微笑み返す、あぁ何とか大丈夫そうだと。
「傷は大丈夫?」
「ん……穴があいてるだけ、平気平気、二人とも本当にたいした怪我は無いの?」
 ノワールに聞かれてそう返す彼女、二人はそれぞれ問題ないと答えて、少しの間沈黙が降りる、ユリエは覚悟を決めたような表情をして
「面会時間を無駄にしちゃいけないわね、雪菜ちゃん。ちょっとイチャイチャしたいからノワール君借りていいかな?」
「え? ……あ、わかりました、それじゃあ外で待っていますね」
 雪菜はそう答えた、いきなりすごいところを言ってくるなと思ったが、廊下に出て。
「ジュースでも買いに行こうかな」
 ひたひたと歩いていった。



「大丈夫?」
「何が?」
「いろいろとさ」
「大体は、ここ数日は大丈夫だよ」
「そう。二人とも強いね……」
「そっちこそ、随分立ち直ったみたいじゃないか」
「あたし? んー悪い血が抜けたからかな?」
「そういう冗談が言えるなら大丈夫だろ」
「そうだね……ちょっと手握っていいかな?」
 返事を聞く前に手を取って、何かを確認するように握る、そうしながら。
「あたしはここに居るね、ノワール君もそこにいる……間違いじゃないね、ほんの少し前に間違えなかったから、今こうしていられる……そう考えていいのかな」
「きっとそうだろうな、俺も雪菜が居るのをここ数日何回か確認したよ、買い物行ったり、頭なでたりしてさ。……間違いなくそこにいた、そんでいまユリエもここに居るんだな」
「そうだね、だからこそこれからだよ」
「そうだな、これから頑張らなくちゃいけないんだ」
 二人は確認して手を離す、また少し黙ってから彼女が言う。
「ありがと、それじゃ雪菜ちゃん呼んできてもらっていいかな?」
「なんだよ、今度は雪菜といちゃいちゃすんのか?」
「そうだよ、あたし節操なしだから」
 冗談を言って部屋を出る彼を見送る、今度はもう少し緊張する相手だ。
 それでもきっと大丈夫、少し前を思い起こせば、今はなんて平和なんだろうと思う。三人が三人とも釜の底を目指していたようなあの時期はもう終ったんだから、自然に接すれば良い、それが出来ればきっと大丈夫だ。



「やっぱり眼の色が変わったよね」
「えぇ、私もそう思います」
「あの時覗いた雪菜ちゃんの目は深くて何を考えているかわからなかったよ」
「こっちもおなじようなものですけど、なんにしても」
「うん、お互いに無事でよかったよ」
「ユリエさんは無事っていえるんですか?」
「あたしが無事って言えば無事よ、ちょっといいかしら?」
 手招きをしてベッドの近くにまで来てもらい、先ほどと同じように手を取って確認する。
「うん……やっぱり雪菜ちゃんも居るんだね、良かった」
「ユリエさんも居ますね。ちょっと言いづらいんですけど、やっぱりお義兄ちゃんに必要ですからね」
「雪菜ちゃんだって必要なのは一緒でしょ? あぁいまさらリと言ったつもりでかなり言いづらかったわ、まったく」
 お互いに笑う、この話を笑ってできるならきっと大丈夫だとおもった。
「ノワール君はさ」
「えぇ」
「あたし達みたいな理由じゃなかったから、一歩踏みとどまれたんだと思うの」
「そうですね、きっと」
「でも、その代わりに」
「抱えた問題はそう簡単に消えるものじゃないんですよね」
「そう、あたし達にできることはあるのかな」
「一緒に居る時間が長い私が見る感じでは、何かできるとは思います」
「それじゃあ、それをやってあげたいね」
「そうですね、とりあえずは早く退院してください。……もう面会時間一杯ですね」
「っと、そうだね。それじゃあ気をつけて……っとそうだ」
「何でしょう?」
「お義姉ちゃんってよんでくれない?」
「……正式に家族になってからにします」
 苦笑を浮かべて出て行く雪菜を見ながら、調子に乗りすぎたかと苦笑する、出て行ってからしばらくして、傷が痛み出したのを我慢する、早く退院しなくちゃならないなといっそう気合を入れるのだった。



 二人しか居ない家は後片付けも終わり、いつもどおりの姿を取り戻していた。具体的に言えば血痕とか刃物痕だとかを修繕してあった。
「夕飯どうしようか」
「お義兄ちゃんは何か食べたいもの無いの?」
「難しいなぁ、お魚がいいかな?」
「それじゃあ一緒に買い物いこうよ、帰ってきたばかりで疲れているかもだけれど」
「そうだなー少し疲れているけど、兄妹で買い物いくかぁ!」
 気合の入った声で立ち上がるノワール、嬉しそうにその後をついていく雪菜。
「煮付けにしようか焼き魚にしようか……」
「秋刀魚食べたいかもしれないなー」
「時期じゃないからなぁ……お店に行ってから考えよっか」
 二人はならんでゆっくり歩く、隣に自分の家族が居るのを確認するように、ゆっくり歩く。
 両親は居ない、交友も少ない、前途多難が安易に予想できる。
 だが、もしかしたら全てが終っていたかもしれないことを乗り越えた。
 先延ばしにしたことで得ることが出来る幸せ、ついてきてしまう苦難。その全てを受け入れる覚悟が出来たわけじゃない。
 それでも、二人は前に進んだ、スーパーに向かう道をゆっくりと確認するように一歩ずつ前に進んだ。それが正しい未来に進む未来だと信じるように一歩ずつしっかり進んだ。
 三人目が加わるのはまだ後になるだろうか、薄暗い道をスーパーの光に向かって、見えない旅路を未来の光へ向かって。
 とりあえず、二人は再度進みだした。

闘技大会 8回戦 ヤンデレ三角関係 +
前書き
最後を締めたのはヤンデレ三角関係、死亡フラグ乱立が最後とは……テーマ提出私ですが!
勝敗によるマルチエンディングを採用し、ハッピーエンドにいたるには結構薄い部分をひかなければならないというこの勝負。さて結果は?

役割
七折:恋人、義妹が憎くてたまらない
ノワールさん:恋人、自分の種族に対して悩みを持ち続ける
雪菜さん:義妹、恋人(女)が憎くてたまらない



本文

 全ての始まりはこのときから。と彼女はいう。もう一人の彼女は否定し、彼も否定した。それでも、彼女はかたくなに信じている、この時が始まりで結末に向かう列車は確実に走り出したのだと。
 七折ユリエの言い分。

「あのさ、俺に義妹いることって話したっけ?」
「え? ううん、きいてないよ」
 ちょっとだけ考えて、彼女、七折ユリエは返事をした。忘れっぽい自分のことだ、もしかしたら話していたのを忘れているかもしれない。もしそうでも、もう一回聞けばいい、知らない話が勝手に進むのはあんまりよくないと考えていた。
 そっか、といって話しかけた男性、ノワールは頭をかいた。二人は一つのテーブルを挟んで座っている、そこまでべたべたしているわけではないが、一般的にいえば恋人同士という関係だ。一般的と違うところといえば、彼女は人間で、彼は人間ではないところが上げられる。
 ノワールは猫だった、少し特殊で人の姿も取れるが、猫であることに変わりはなかった。勿論彼女もそれをわかっている。
「二人っきりの家族でさ、血はつながってないけれど、大事ないもうとなんだ。もしかしたら俺らも家族になるかもしれないじゃん、そうならないかもしれないけれど、一回あってみないか?」
 大事な。といわれて彼女は少し心が痛む、いや大丈夫それは家族として大事ということだ、と心の中で確認してから返事をする。
「うん、いいよ。ノワール君がそうしたほうがいいっていうなら、あたしはそうするよ」
 そういってユリエは笑った。この人と家族になれるならあとは何もいらないという笑みだった。



「それじゃあ明日迎えにくるから」
「うん、それじゃあね」
 つないだ手を一回強く握って、笑ってわかれる。ドアを開けて家に入ったあと、彼女は自分の手を見て少し笑った。
 それにしても、と考える。彼の妹とはどのような人なのだろう。
 彼はすばらしい、付き合っているから贔屓目に見ているということもあるかもしれないけれど、自分にはもったいないぐらいすばらしい人だ、一緒に居られるということが嬉しくてしょうがない、全身が喜ぶのが判るぐらいだった。
 そんな彼の妹だ。血はつながっていないといったけれど、きっといい子なのだろう、大事な……家族なのだから。
 やっぱり少し心が痛む、自分が大事にされていないわけじゃない、でも。出来ることならば彼にはこちらだけを見ていてほしいと思った。
 ぶんぶんと頭を振って思いを振り切る、家族に嫉妬してどうするんだあたしは!
 冷水で顔を洗うために立ち上がり、洗面所に向かった。
 明日になれば彼が来てくれる、でも大事ないもうとに会わなくちゃいけない、ちょっとだけ複雑な気持ちをたたえて、彼女は顔を洗った。



「おっはよー」
「おはよう、そこまでこだわった格好じゃないけど、大丈夫かな」
「おっけーおっけー」
 そういってノワールはユリエの手をひいて外に連れ出す、彼女は言葉通りあまり選んだ服装とはいえなかった、彼と会うのだからもっときっちりしたかったけれど、なかなか寝付けずに寝坊してしまったのだった。
「ちょっと歩くぜ」
 そういって手をつないだまま二人は彼の家へと向かう、ユリエには幸せな時間がしばらく続いていた。
 言葉通りちょっと歩くと彼の家に着いた、以前も来た事はあったが、今日は少し緊張感が伴う。
 手を解いて彼がドアを開ける、すると中から弾丸のように少女が飛び出してきた。
「お兄ちゃんの帰りなさいっ!」
 元気良くそういってノワールに抱きつく少女、ユリエの心がまた少し痛みをうったえる、ぎゅーっとくっついたままはなれない少女を笑いながら見て彼が紹介する。
「義妹の雪菜。ほら雪菜挨拶しなさい」
「あ、すいません。話は聞いています、ユリエさんですよね、雪菜っていいます、よろしくお願いします!」
 ノワールから離れて頭を下げる、快活でいい子だとおもう、黒い髪が共通点かなと、思ったけれど血はつながっていないんだったと、思い直してから
「七折ユリエよ、よろしくね」
 精一杯の笑顔を作って返事をする、先ほどから心の痛みがやまないので少し大変だった、その挨拶を受けた後、雪菜はまたノワールにくっつく。
「こらこら、いつもはこんなにべたべたしないじゃないか」
「たまにはいいでしょー?」
 ずきずきと、彼女の心が痛む、大丈夫大丈夫とくりかえし心の中で言って、無理に笑顔を作った。
 彼女はこのときが全ての始まりだと、ずっと信じている。



 全ての始まりはあの時。と彼女は言う、ただ彼は否定する。
 誰がなんと言おうと、あのときが全ての始まりで、踏み込んできたのは向こうが先だと彼女は信じている、だって実際にそうなのだから。
 雪菜の言い分。

「実は、彼女が出来たんだ」
「……え?」
 兄の告白を雪菜は一度聞き返すように返事をした、聞き取れなかったわけではない、少し想像しがたい言葉だったからだ。
 兄は、義兄は実のところ人間ではない、彼女とは血がつながっていないので、彼女は人間だが。
 それでも彼は人間生活に溶け込もうと、世間に出ていた。しかしあまり明るい性格ではなく、友人も少ない。以前友達が出来たと聞いたときもおどろいたぐらいだった。
 今回は、驚きよりも大きいものがあって、彼女はそれに押しつぶされかけた。血のつながっていない兄妹、友人の少ない兄……彼女は兄のことが好きだった、それは家族としてではなく一人の女性としての感情だった。
 それを自覚したのは、実は少し前だ。だが家族間での恋愛はいけないと思ったし、二人の間に割ってはいるような人間が居るとは思わなかったから、そこまで気持ちを出すことはなかった。だが
 ……彼女?
 痛い。雪菜はそれを感じた。快活な少女、大好きな義兄、何も翳りのないはずの生活にねじ込まれたそれは、あまりにも大きいと感じられた。
 この気持ちは、知らない。悔しくて苦しくてこれはなんだろう。知らなくてもいい、苦しい、助けてお義兄ちゃん。
 それらを全て押さえつけて、彼女は笑って返事をする、悟られてはいけないと思う。彼に心配をかけるわけには行かない。
「そう、良かったね! お義兄ちゃん、あんまりモテないと思ってたよ!」
 ……頑張った。我ながら、頑張った。
 心の奥でそう繰り返して、トイレに行くと告げてから部屋を後にする。
 スカートも脱がず便座に座るだけ、鍵をかけてぐっと身体を折り曲げる。
 きりきりと、そんな音が聞こえてきそうなぐらい痛みは続いている、顔は歪んでいるかもしれない、泣きそうだった、それでも心の中で何度も唱える、落ち着け落ち着け落ち着け。
 ふぅと息をついて自分が大丈夫なことを確認する、彼女が出来た、確かにそれはあまり喜ばしいことじゃない、素直になろう。
 それでも、まだ私のほうが義兄に近い、それは間違いなく家族の絆はそう簡単に超えられるものじゃない。
 誰よりも自分を安心させるためにそれを繰り返す。大丈夫、大丈夫。
 心を落ち着けてからトイレを出て、義兄のもとへといって、聞かなければならないことを聞く。
「ところでその人なんて人なの? どういう感じの人?」
 できるだけ明るく彼女はそう切り出した。
 今になれば、あそこから始まったと彼女は言う。


 彼は全ての始まりはその時だという。破滅に向かう列車が走り出したのはそのときで、何も間違いなんてないと。
 ノワールの言い分


 暗い場所だった、採光がわるいわけじゃない、そういうことを言っているわけではなく、その点でみれば人の目でも十分明るいと感じられる空間で、猫の目からすれば十分に明るかった、それでも空気は暗く、よどんでいると感じていた。
 彼は性格が明るくなかった。それは化け猫として人の世界に踏み込んだころぐらいから始まったことで、生来はなかなか明るい性格だったと思う。
 人の世界は知らないことばかりだった、いろんなことが新鮮で好奇心の強い彼にはいい世界だと思えた。それでも知っていけば知っていくにつれて、自分の限界というものが見えてきてしまった。
 人の姿を取れるといっても、彼は猫だった、他人とは違う。それは当然だと思っていた。だが命の長さや、身体の丈夫さなども彼は人より劣っていた。
 普通に会話をした相手がこれからも生きていくのに対して、俺はあまり長く生きられないんだと、何度も思い、人とのかかわりが怖くなっていた。自分が自分だけが先に逝ってしまう。辛かった、その現実だけが辛かった。
 だから彼にはここは暗い場所だった、周りの人間達と自分を比較し続けてしまうのだった。
「こんにちは」
 声を聞いた時それは自分に話しかけられたものではないと思った、だが再度。
「こんにちは」
 そういわれて彼はそちらへ視線を向ける、白い服を着た女性がそこに立っていた。特徴といえば長い黒髪ぐらいな物で、特別な魅力はない。がとりあえず彼は返事をした。
「こんにちは」
「あ、よかった、無視されるかと思った」
 少しほっとしたように女性が笑う、誰だろう、と記憶をめぐるが初対面としか思えなかった。
「あぁうん、そういえばはじめまして、だね。あたしここに来て日浅いからさ、なに黒い髪の毛を持つもの同士? 仲良くしてくれない?」
 さっと手を出す彼女、握手かと思いなんとなく手を握り返すと
「わ、握手してもらえるとは思いませんでした」
「手ぇ出しといて?」
 この人変だ。とおもって彼は笑った、変だけれど。
「あのさ、仲良くするっていっても、俺人間じゃないんだけれど、いいの?」
「あ、そうなんだ。別にたいした問題じゃないんじゃない?」
 まるで、本当になんでもないように彼女は言った、彼はなんでもないことないんだけれどなぁと思ったけれど、とりあえず、友達が増えたことを喜んだ。
 その時が全ての始まりと彼は思う、もっと考えるべきだったのだと、それから続く時の間に、俺の心が歪んでしまったのだと




 彼はどこも始まりなんかではないと言う。
 彼は間違わないし、少なくとも悲劇に走り出した列車なんてなかったのだと彼はいう。
 神様の証言。

 三人はそうして今までの時を過ごしてきた、ノワールとユリエは婚約寸前まで関係が進んで。
 ユリエは雪菜を嫉み、雪菜はユリエを恨み、ノワールは種族の違いを呪った。
 ただそれでも、三人には悲劇以外の結末も準備されていると彼は言う。三人が勝手に悲劇に向かって飛び込んでいく中で、それでもと彼はいう。
 結末を決めるにはまだ早く、救われる道はあるのだと。
 三人は悲劇に向かって走っている、それぞれが、描いた結末に走っていくために。

闘技大会・6回戦・家族家庭
前書き
テーマは家庭家族。それぞれ個性が強すぎてすごい家族だ
父親が重要な位置を占めていない。
実はPT名変え忘れてフォローをしたりしています

役割
七折:長女、眠り
ノワールさん:長男、幽霊、居候
雪菜さん:ロリ母



本文

 時刻は早朝であったが日は昇り、肌寒い空気の中にも若干の暖かさが混ざっていた。それでもカーテンが閉ざされた部屋に入る光は少なく、明かりのついてない室内は暗かった。
 低い低音でポンプが動いている、水槽の中では金魚とエビがそれから酸素の供給を受け、今まさに水面に落とされようとする餌を飼い主から供給されていた。
 笑みを浮かべながら餌を与えている男はこの家の長男で、名をノワールといった。整った顔立ちに健康的な肌、長く綺麗な髪、女性から人気のありそうな風貌ではあったが、そう簡単にいかない理由がいくつかあった。
 一つは彼自身の問題、彼は長男ではあったがそれと同時に幽霊であった。幽霊だからちょっと格好も特殊だ。
ただ明らかに存在しているし、その姿はくっきりしているが、幽霊で長男なのだ。更に居候という属性もあるが、家族であることに変わりは無い
 ついで、彼は若干変態だった、もちろん世にはばかる変態と比べれば些細な変態度ではあったが、実は金魚とエビも食用に育てているのではないかと家族間で噂が立っている、いやほぼ確信されている。
 最後の一つはその家族の問題だった。
「ノワール? おきてるかしらー?」
「おきてるよーもう朝食?」
 ドアの向こうから聞こえた声に返事をする、それに返事が来たのを確認してから彼は再度声を返す。
「わかった、それじゃ花壇に水やってからいくよ」
 そういって、目に付く位置にあった動物を模したじょうろを手に取り窓から外へ出る、言い忘れていたがここは二階だ、幽霊には関係ないが。
 ふわりと地面に降り立ち水道へと向かう、朝霧家の今朝はこのようにして始まった。



 先ほどまでは無かった、いや居なかったそれを見て彼女は少し驚いた。長男の部屋よりも階段に近い位置にある長女の部屋。そのドアの前に長女が眠っていた。もちろん布団の上で、こちらも長男と同じく長い髪を持っているが肌は白い、健やかな寝顔ではあったが、状況は若干奇異といえた。
 布団はそのまま階段のほうへと向かう。長女のユリエは眠ることが何よりも好きだった、眠るのが好きな人大会なんてのがあれば優勝を狙うことも出来たかもしれない、そんな彼女は布団の上から離れたくなくて、自走する布団安眠君を開発し、日々その上で生活をしている、実は外でも稼動できるのだが、近所の目が気になったことが一割、寝ながら移動していたら、事故にあいかけたのが九割でそれなりに自重するようになった。
 安眠君はそのまま階段を滑り落ちていった、朝になれば居間へと移動するシステムが働いたのだが、その上で寝ている彼女は言わずもかなである、若干の悲鳴を残して階下から衝撃音、あわてて降りていこうとするが、寝息が聞こえてきたので一つため息をついて勢いを緩めた。



 道をふさいでいる長女を跨いで彼女は居間に踏み入れた。そのままキッチンへ向かい朝食の用意をする。彼女は料理が出来る母親だった。
たまに居る壊滅的な腕を持っているのとは一線をかくし、チューリップの描かれたピンクのエプロンが彼女のお気に入りだった。
夫との思い出の品だったりするのかもしれない、その夫は今居ないのだけれども。
 雪菜という名を持つ彼女は、個性の強い子供を持つ割にはなかなか常識を備えているといえた。家事をこなし、バーゲンの戦いにも勝ち、近所付き合いもきちんと行っている。クロスワードやドラマを見るのも好きで、まぁ一般的な母親だと誰もが言うはずだ。若干おっとりしすぎな部分はあるが、本当の問題はそんなところではない。
 彼女はすごく力持ちだった、りんごを握り潰すのも容易で、ブロック塀を破砕したこともあった、だがたいした問題ではない。彼女は子供達よりも小さかった、いやそれも対して問題ではない、何より彼らは結構大きいのだし。
 問題は彼女の見た目にあった、どう見積もっても少女としか言いようが無く、小学生です言っても通用するだろうし、電車もバスも子供料金で大丈夫だ。
ちなみに、女性の歳を明記するのは失礼ではあるが今年で五十歳を数えている。
そんな彼女もまた長い黒髪を持っていて、家族の共通点といえた。父親はわからないが、とりあえずはこんな女性に求婚する男なのでまともとはいえなさそうだった。
 そういった問題はあったが、前述したとおり家事などは全てきっちりこなす、気づけば朝食も手際よく作っており、もう殆ど完成が見えていた。水やりからノワールが戻ってくれば配膳に取り掛かるだけで朝食を始められそうだ。
「……おはよう」
 残念ながら入ってきたのは長女のほうだった、彼女も手伝いが出来ないわけではないが寝起きは頼りにならないと思ったほうがいい、いつもにまして眠そうな目をこすりながら、携帯電話を弄っている、メールなどをしているわけではなく、定期的にアラームを鳴らして眠りからひき戻すようにしていた。
「みずやり終わりっと。あれ、ねーちゃん起きてたんだ」
「……」
 さらに水やりを終えたノワールが戻ってきて、料理を配膳していく、ユリエはどうやら眼を開けたまま眠っているようで、よだれがズボンをぬらしたころに朝食の準備が整った。



「「「いただきます」」」
 三人同時に手を合わせて言う。今日の朝食は焼き魚に納豆、味噌汁と和食の定番メニューのようだった。
 朝霧家では和食が多い、パンは週に一回で多いぐらいの割合だ、時たま外食をすることもあるのだが、お子様メニューがあるところだと、とりあえずそれから勧められることが多くてあまりいかない。
 のんびりとした朝食が終ったところで、思い出したように雪菜が声をあげる。
「あ、そうだ、今日は二人とも暇かしら? ちょっと手伝ってほしいことがあるのだけれどー」
 二人は少し考えるようにした後一人ずつこたえる。
「俺は別に平気かな、幽霊会議があるから夜には家に居ないと拙いけどそうじゃなければ」
 ノワールはそう言って雪菜を見る、つづいて少し気まずそうにユリエが
「あたしはちょっと……急用が」
 と両手に枕を抱えながら言う、ちょっと説得力が足りないが。
「急用ならしかたないけどー、どういう用事か言える?」
「え、えーと快適な睡眠を得るための枕の選た……」
「今日じゃなきゃ駄目?」
「あ、いえ、大丈夫です」
 負けましたという表情で彼女は言う。それを聞いて笑顔で説明を始める雪菜。
「それじゃあ、作戦会議よ。チラシを見て頂戴」
 机の上に広げられたチラシには人数限定! だとかタイムサービス! の文字が躍っている、なるほどと納得する二人。
 つまりは買い物の手伝いということなのだ、あわよくば1家族限定のものを複数手に入れたいという気持ちがあるかもしれない、見た目は小学生なのだがこういうところは立派に主婦だ。
 チラシの商品に印をつけて購入するものを厳選する、無駄な買い物は避けなければならない、さらに地図を取り出して攻めるルートを決めていく。
「よし、と。それじゃあ出発は十分後よー。準備しておいてねー」
 雪菜が地図をしまいながら言ってそのあとに洗面所へと向かう、先に居た二人の間から歯ブラシを取り出して歯磨きに加わった。
 一番最初に終ったユリエが髪もとかさず玄関へと向かう、そこで座ったまま動かないので眠ったのかとノワールが声をかけたが、眠っているわけではなかった、眠そうな眼は変わらないが、男物の靴を見て何かを考えている様子だった。
「ねーちゃん?」
「ちょっと、お父さんのこと考えてたわ」
 そういって靴を履き一足先に外へ出た。念のためと携帯用安眠君を持ち出すのも忘れない。
 朝霧家の父は現在不在である、雪菜と結婚し子供二人をもうけ、何の問題も無い状態から突然出て行ってしまった。時折仕送りがあるので生きているとは思われるのだが、もう長い間電話すらかかってこない。
 母が泣くのを見たのはそれからしばらくたってからだった。
「まったく、なにやってるんだか」
 二人を外で待ちながら彼女は小さくつぶやく、空はまだ晴れていたが視界の端に大きな雲が見えていた。


「……かーちゃん」
「なーに?」
「主婦の買い物って大変なんだな……」
 ノワールが呆然としていう、店内はかなりこんでいて、気のせいじゃなければ殺気立っているような気すらした。
「皆安売り商品を手に入れるために頑張ってるのよー」
 本当にそうなのだろうか、自分が知っている買い物はもっとこう、ゆったりとしたものではなかっただろうか、いや確かにバーゲンセールなどは戦いと呼ばれるようなこともあった、だがそれともまた違う気がする。
「あ、ほら来たわよー」
 一体何がきたというのだろう、そう思いそちらに視線を移すと見知らぬ三人組、正確には三人と一体、一匹。がこちらに相対している。
「え、これは一体?」
「勝負に勝たないと自分達のほしいものが買えないのよー」
 なるほどどうやら自分が知っている買い物とは全く違うもののようだ、母の頼みも頷けるし、家族のためならば彼は頑張れるとおもった、だが少し考えて。
「そういえば、いくつかお店マークしてたよな、もしかして……」
「勿論全部こんな感じよー、それじゃあ頑張りましょー」
「かーちゃん、勘弁」
 やる気がしぼんでいくのを感じながら、彼は横を見た、姉が寝ていた。叩き起こした。
「ハッ! あ、悪の秘密結社は?」
「夢だよねーちゃん、本番はこれからだぜ」